老化は病気であり治療ができる!?

  • 2021年7月5日
  • 2023年7月24日

2020年9月に発売され、世界に衝撃を巻き起こした「LIFE SPAN(ライフスパン)〜老いなき世界」(デビッド・A・シンクレア、マシュー・D・ラプラント著: 東京経済発行)。この著書の中では、「老化は病気であり、治療ができる」ということを述べています。

 

そこで今回は、この著書の内容をできるだけわかりやすく解説しつつ、老化はどのようにして起きるのか、又それを防ぐにはどのようなことが必要なのかについて考えていきましょう。

 

 

老化とは

老化については様々な研究がなされていますが、これまで「老化は自然なことで、人間にとっては避けられないもの」というのが一般的な常識であり、それゆえ老化を食い止めるための手段はないと考えられてきました。

しかし2020年に発売された『LIFE SPAN(ライフスパン)〜老いなき世界(Why We Age-and Why We Don’t Have To)』という著書の中では、「老化は病気であり、治療ができる」という衝撃的な内容が発表され、この著書は医学界のみならず、一般的にも大きな注目を集めることとなりました。

 

同著書は、デビッド・A・シンクレア教授の研究で得られた結論を中心に構成されています。同教授は『タイム』誌による「世界で最も影響力のある100人」(2014年)、「医療におけるトップ50人」(2018年)の1人にも選出されるほどの世界的に有名な科学者であり、老化の原因と若返りの方法に関する研究で知られています。

 

 

細胞の情報

同著書の中では、老化の原因は「情報の変化と喪失」ということが言われています。

生命の情報といえばDNA(デオキシリボ核酸)という言葉を聞いたことがあるでしょう。これは身体の設計図ともいわれ、アデニン、グアニン、シトシン、チミンがある意味を持って並んでいるものです。そしてすべての細胞には同一のDNAが収納されています。人間のDNAは約2mもの長さがあり、これを細胞の中に入れるために46本に分割し、ヒストンというタンパク質に巻きつけています。このような構造体全体をクロマチンと呼び、このクロマチンがさらに折り畳まれたものが染色体です。

 

DNAがヒストンへの巻きつきを強くした場合は、DNAの情報が読み取れなくなりタンパク質合成の作業が行われません。逆に巻きつきが緩むとDNAの情報を読み取れるようになり、タンパク質が合成される仕組みとなっています。ヒストンへのDNAの巻きつきをどの部分を強くし、どの部分を弱くするかによって、作るタンパク質が変わってきます。これが同一のDNAで多様な細胞を作ることができる理由です。そして、このDNAの収納の仕方(巻きつきの緩急の情報)が、エピゲノムと呼ばれています。

 

 

エピゲノムの変化がもたらす影響

エピゲノムは環境変化に適応するために、変化しやすいという特徴を持っています。又これは、DNAを複製するときにも変化してしまいます。わかりやすくいえば、ある写真をコピー機でコピーしたとします。このコピーした画像を再びコピー、そのコピー画像をまたコピーと繰り返しているうちに、元の画像に比べ、ぼやけて劣化してしまうことがあります。これと同様のことが、エピゲノムでも起こってしまいます。

 

つまり、細胞自身が本来どのような細胞であったのかを忘れてしまうということです。このように細胞自身が混乱してしまった結果、元の細胞とは異なった細胞(がん細胞など)になってしまうことがあります。つまり老化とは、エピゲノムの変化で起こる細胞の情報の喪失ということになります。

 

 

サーチュイン遺伝子の働き

この細胞複製の制御(エピゲノムの制御)と遺伝子の修復を行なっているのが、長寿遺伝子として知られているサーチュイン遺伝子です。このサーチュイン遺伝子は、DNAの複製を環境が穏やかなときに行ない、環境が厳しいときは抑制します。環境が厳しいということはDNAが破壊されているときですから、このようなときに複製を行なってもDNAが正しく複製されないため、細胞の修復を優先的に行ないます。これは子孫が生き延びる確率が高いときだけ細胞を複製するという重要な仕組みです。

 

普段サーチュイン遺伝子は修復と制御を行ないますが、過度のストレスに晒され、DNA修復に注力しなければいけないようになると、エピゲノムを制御することができなくなってしまいます。これにより、本来のDNAのヒストンへの巻きつきの緩急情報が正確さを欠いてしまうこととなります。それにより、巻きつきを緩めるべきところが強く、強くするべきところが緩くなってしまうということが起きるようになってしまいます。つまり、DNAの損傷が激しくなると、サーチュイン遺伝子がDNAの修復に集中することとなり、エピゲノムの制御が疎かになり、ひいてはエピゲノムの情報が喪失してしまうことになってしまうのです。

 

 

老化のメカニズム

この著書の中でシンクレア教授は、老化の流れを

 

『若さ→ DNAの損傷→ ゲノムの不安定化→ エピゲノムの混乱→

細胞のアイデンティティー喪失→ 細胞の老化→ 病気 →死』

 

と結論づけています。

 

つまりDNA損傷を抑え、エピゲノムを安定化させれば、老化を防ぐことができるということができます。

 

 

老化を促進する過度なストレス

老化を防ぐためには、DNAの損傷の要因となる過度のストレスを取り除くことが必要であるということがいえます。この過度なストレスの原因としては、タバコや食品添加物、紫外線、有害物質、大気汚染などがありますが、これらによって発生する物質が「活性酸素」といわれるものです。

 

活性酸素は体内の細胞を錆びつかせてしまい、エピゲノムを不安定化させてしまう原因となります。このため、日常的に体内に溜め込んでしまった活性酸素を除去する必要があります。この活性酸素除去に有効とされる物質が「活性水素」といわれるもので、体の中で活性水素を産生させることができるサプリメントを摂取することで、活性酸素を除去。これが老化のメカニズムを断ち切る有効な方法として注目されています。

 

 

今回は少し難しい内容の話となりましたが、老化は単なる自然現象ではなく、老化は病気であり、と同時に治療方法があるという新たな認識が、みなさんの中でも芽生えたのではないでしょうか。次回以降も引き続き、老化を食い止めるために私たちにできることについて、お話できればと思います。