『老化細胞』について知る ~そこから導き出される老化治療の可能性~

デビッド・シンクレア教授は2020年に『LIFESPAN(ライフスパン)〜老いなき世界』(東洋経済社発行)の中で「老化は病気である」とし、老化のメカニズムを解明しました。ここで老化とは〝細胞のアイデンティティーの喪失″であり、それを防ぐことができれば老化はしないとしました。

ではこのアイデンティティーを失った細胞とは何なのでしょうか?それを取り戻す方法はあるのか?キーを握る「老化細胞」とは?その対策などについて見ていきたいと思います。そこから導き出される老化治療に有効な手段が見えてくるかもしれません。

 

 

老化は病気である

従来の考えでは、老化は年齢を重ねることによる現象(老化現象)であり、「自然の現象」と捉えられてきました。しかし、デビッド・シンクレア教授が2020年に「LIFE SPAN(ライフスパン)〜老いなき世界」(東洋経済社発行)の中で発表した内容は、これまでの常識を覆す「老化は病気である」という事実であり、世界中に衝撃が走りました。

 

細胞のアイデンティティー喪失

私たちの体は細胞でできており、老化はその細胞の遺伝子情報が何度もコピーされていく中で元の形とは違ったものに変化してしまう、つまり細胞自身が元の記憶をなくしてしまい異常なものへと変化してしまうことにより引き起こされるとされています。そしてこれを「細胞のアイデンティティー喪失」といい、それにより老化が及ぼされることから、老化は自然現象ではなく「治癒が可能な病気」という位置づけをすることができるのです。

 

細胞の修復に必要なNAD(NMN)

細胞のアイデンティティーを取り戻すためには、まず壊れたDNAを修復することが求められます。ここで必要になってくるのがNAD(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)といわれる酵素です。ところがNADそのものを摂取しても、そのままでは体に吸収できないため、NADを作り出す元となる物質NMN(ニコチンアミド・モノ・ヌクレオチド)の摂取が有効となります。このNMNは摂取すると速やかに体内に吸収され、代謝組織で直ちにNADへと変化されます。

 

DNA修復不能になった細胞の運命

しかし、NADで修復しきれなかった細胞はどうなるのでしょうか?

実は細胞のDNAが修復不能になってしまった場合、その運命には以下の3つのパターンがあることが知られています。

 

  1. アポトーシス(細胞死)する:これは細胞自体が自殺するということです。つまり、役目を終えてしまった細胞は体にとって不要となり、そのため自然に消えてなくなってしまうようプログラムされているのです。
  2. 老化細胞になる:老化細胞とは、秩序を失ってしまった細胞の成れの果てを指し、増殖することはありませんが死にもしないため、体に蓄積されてゆきます。このようにずっと体の中に居座ることから「ゾンビ細胞」とも言われています。
  3. ガン化する:ご存知の通り日本人の死因トップであるガンの原因となります。

 

「老化細胞」の怖いはたらき

老化に関していえば、上記②で示された『老化細胞』が大きなポイントとなります。この老化細胞は、自らが死ぬのを拒み、また修復不能になってしまうにとどまらず、周囲の細胞に対しても様々な悪影響を及ぼすことが知られています。主な影響は、体内における炎症性物質を分泌し続け、慢性的な炎症を引き起こしてしまうということです。それにより周辺の細胞に対して老化を促進し、組織や臓器の機能低下を引き起こします。そしてこの機能低下は、老化に伴う病気の発症に中心的な役割を果たすことになるのです。こうして蓄積された老化細胞は、他の周辺の細胞までもゾンビ化させ、気がつけば体中の細胞のほとんどが老化細胞ということにさえなってしまうのです。

 

老化細胞の対策について

さて、この老化細胞に対する対策は果たしてあるのでしょうか?

一度老化細胞となってしまった細胞は、復元して若返らせることは困難です。そこで、老化細胞を死滅させ除去する方法が最も有効であると考えられます。実はこの方法、本来人間の体には備わった機能であり、比較的若い年代のうちは、発生した老化細胞を除去するだけの能力があるため影響はありませんが、ある程度の年齢からは除去能力が低下し、発生した老化細胞の数が除去できる数を上回ってしまうため、徐々に体内に蓄積されてしまうのです。

 

老化細胞を死滅除去させる「セノリティクス」

そこで現在、老化細胞を死滅させ減らす薬として開発が進められているのが「セノリティクス」(老化という意味のsenescenceと溶解や破壊という意味の–lyticを合わせた造語)というものです。これは、できてしまった老化細胞を選択的に体内から取り除くことができると考えられており、2019 年にはアメリカのジェームズ・カークランド医師が人間に投与する初の試験を行いました。まだ開発段階にあるものではありますが、老化細胞が及ぼす様々な症状に効果があると期待されています。

 

セノリティクス活性最強の「フィセチン」

現在開発中のセノリティクスですが、このセノリティクスの候補として最も強力なものとして挙げられているのが天然化合物であるフィセチンです。フィセチンは植物性ポリフェノールの一種で、いちご・ぶどう・りんご・柿・玉ねぎ・きゅうりなどに多く含まれています。フィセチンを摂取することにより、体内に蓄積されてしまった老化細胞を除去する効果が期待されています。

 

老化治療のダブルパワー

ここまで老化について見てきましたが、老化を病気として治療するためには、以下の2つが有効であると考えられます。

 

  1. NMNを摂取してNADを増やし、細胞の秩序維持・DNAを修復してあげることで、老化を引き起こす老化細胞の発生を食い止める。
  2. フィセチンなどのセノリティクスを摂取することで、体内に蓄積された老化細胞を死滅・除去してあげること。

 

つまり、出来得る限り老化細胞を作らない、貯めない。また、できてしまった老化細胞については選択的に除去する。このダブルのはたらきにより、老化治療の実現の可能性が見えてくるといえるでしょう。

 

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